腰部脊柱管狭窄症とは
村山医療センター 院長 谷戸祥之
整形外科の病気のなかでも最もポピュラーなのが脊柱管狭窄症です。
今回はあらためて腰部脊柱管狭窄症について、できるだけわかりやすく説明させていただきます。本内容は令和4年12月15日に村山医療センターの市民公開講座にて取り上げさせていただきました。
~腰椎とは~
背骨のなかでも腰にある5個の骨を腰椎といいます。腰椎は体をささえる柱であると同時に頭から降りてくる神経を守る鎧として働いています。前方には椎体といわれる支柱、後方には棘突起と椎弓があります。この後方部分に大事な筋肉が付着しています。
中央に脊柱管という神経の通り道があります。骨と骨の間にはクッションとなる椎間板があります。
図1 腰椎正面像
図2 腰椎側面像(左方から)
図3 X線 腰椎正面像
図4 X線 腰椎側面像
図5
~脊柱管狭窄症とは~
人間は年を取るにつれ、体の色々な部分に変性が出てきます。脊柱管が年齢とともに変性により狭くなって中を走る神経(馬尾)が圧迫された状態を脊柱管狭窄症と呼びます。
神経が圧迫されるとその神経の担当する部位に痛みやしびれが出現します。腰痛はないこともあります。また典型的な症状である間欠跛行や膀胱直腸障害が発生します。
図6 MRI 腰椎側面像
図7 MRI 腰椎断面像 正常部位 中央の白い部分が脊柱管です
図8 MRI 腰椎断面像 狭窄部位 脊柱管が黒く狭くなっています
~間欠跛行とは~
歩いていると下肢にしびれや痛みが出現し歩けなくなります。少ししゃがんで休むと痛みしびれは軽快し歩けるようになりますが、また同じくらい歩くと下肢痛が出現します。100mで歩けなくなる人やひどい人は10mも歩けないこともあります。
図9 間欠跛行
~膀胱直腸障害とは~
トイレにいったばかりなのにすぐ行きたくなる頻尿や残尿感の他に知らないうちに排尿してしまうこと、夜間に2回以上トイレに行く方は注意が必要です。症状が進行すると排尿や排便がスムーズにいかず苦労することがあります。尿閉といって尿を出すことができなくなると緊急手術の必要があります。
~腰部脊柱管狭窄症の治療~
軽度のしびれや下肢痛の場合には薬の内服で様子をみます。各種の痛み止めや血の流れをよくする薬を使います。ビタミンB12は神経の回復を促すことができます。
脊柱管狭窄症は安静にしていれば症状は出現しないのですが、あまり大事にしすぎて歩かないでいれば、下肢の筋力が落ち、骨も弱くなる(骨粗鬆症)ので注意が必要です。内服やリハビリ、ブロック注射は症状の軽減には役立ちますが、狭くなった脊柱管を広げることはできません。根本的な治療は手術ということになります。かならずしも全員が手術することはなく症状が軽快している患者さんは経過観察になります。よく歩いて体力が落ちないよう心掛けてください。
~手術適応について~
薬でよくならない場合や下肢の筋力が落ちてきた場合は手術によって神経の通り道である脊柱管を広げることが必要になります。膀胱直腸障害は放っておくと治らなくなってしまうので早期な手術が必要になります。
狭くなった脊柱管の後方の壁である椎弓を削り除圧します。椎弓切除術と椎弓形成術があります。
図10 CT 断面像
図11 腰椎側面
後方の連続性がなくなるため不安定性が生じる可能性があります。全員ではありませんが腰椎が前方に曲がり身体が前かがみになる傾向が出現します。 当院では可能な限り片側進入両側除圧術を行っています。
図12 CT 術前
図13 CT 術後
棘突起を温存し片側から侵入し反対側まで除圧します。後方の支持組織を温存することで術後の変形を予防できる可能性があります。技術的にはこちらのほうが高度です。手術用顕微鏡や内視鏡を使用し狭い術野で行われます。
手術時間は1か所の狭窄であれば30分~1時間程度、出血はほとんどありません。狭窄部位が多数の場合にはもう少し時間がかかります。手術は全身麻酔で行われます。術後は2日間はベッド上です。術後10日程度で退院になります。合併症として局所の感染(ばい菌が手術部位に入ってしまうこと)が1~2%に起こります。つまり100人のうち1~2人で再手術となり局所の洗浄が行われることになります。その場合には入院期間が延びてしまいます。その他、全身麻酔に伴う一般的な合併症はあります。
図14 手術用顕微鏡
図15 手術用顕微鏡
~症例~
典型的な症例を紹介します。
90歳の女性、20mの間欠跛行と排尿障害で紹介されて来院しました。
図16 腰椎正面 軽度に曲がっています。
図17 腰椎側面
図18 MRI側面像
図19 MRI 断面像
図20 術後CT断面像
4番目と5番目の腰椎の間で脊柱管が圧迫されていました。片側進入で両側除圧を行いました。手術時間は52分、出血は10ml、入院は18日でした。
“腰部脊柱管狭窄症とは2“では実際の手術室の様子を説明いたします。